タサはバーに入った。湿気と熱に包まれた中に酒の香りが鼻をついた。
薄暗い灯光の下、男たちは上着を脱ぎ、汗だくの背中をさらけ出して、中央のテーブルの横に座り、劣悪なビールを口に注ぎ入れている。際どい服を来た侍女がテーブルの間で動き回り、客たちにビールを注いでいる。
彼は少し状況を見て回ったが、すぐに自分の目標を見つけた。小柄な男が目立たない角に座ってい、そのテーブルの上にはしぼんだ野ばらが置かれていた。
タサはバーカウンターに歩み寄り、まず一杯のビールを注文した。ビールの苦味を味わいながら、周囲の様子を窺い、その小男を監視している者がいないか探した。結果は彼を満足させた。たまに誰かが角を見るが、殆どは何も考えていないようだ。中央のテーブルに座っている一人だけが、ビールグラスを隠れ蓑にしながら角の動きを探っていた。
一人が接触、一人がフォロー。これはブラックストリートのラッツたちの通常の行動で、タサの認識とも一致していた。
「もう一杯」と彼はバーキーパーに声をかけた。「冷たいので」
「氷ビールは倍の値段になりますよ」とバーキーパーが警告した。
タサはシルバーウルフコインを一枚投げつけた。「どんどん冷やしてくれ」
白い霧を立てるビールグラスを手に彼はその小男の前に歩み、テーブル端の野ばらにビールを注いだ。冷たいビールがしぼんだ花びらに沿って流れていく。
相手はいら立った顔で頭を上げた。「美味しい酒を飲まずにテーブルに注ぐなんて、なんのつもりだ?」
「野ばらに敬意を表して」とタサは笑った。彼は向かい側に座り、「ずいぶんと探しましたよ」
「それはただあなたが方向を見つけられていないだけだ」と彼は不機嫌に言った。「それでは、お客様……何の用件で私をお探しですか?手がかりを探す、物を盗む、失くした物を取り戻す、それとも隠し物の解放?」
「それら全てではなく、ある噂を広めてもらうことに協力して欲しいんです」
「それは我々ビジネスの範囲外だよ」と彼は首を振った。