「祈念?」
クラインは気合を入れると、前回の「吊された男」を覗いたときのやり方を参考に、全身に霊性をみなぎらせ、深紅の星たちに手を触れた。
その途端、クラインの目の前に、うねってぼやけた画面が現れた。黄褐色の髪の毛の少年が、両膝を地面につけ、透き通った水晶玉を見つめている姿がおぼろげながら確認できた。
少年が着ている黒いぴったりした服は、ルーン王国で流行しているものとは全く異なっており、クラインが雑誌で見たことのある、フサルク帝国やインディス共和国などの外国の伝統衣装ともかなり違っていた。
少年がいる場所は薄暗く、椅子やテーブルは古びていて、時おりピカッと光に照らされ明るくなった。しかしクラインには、雷や雨の音は聞こえなかった。
少年は握った両手を額につけ、体を前にかがめて、何かを祈っていた。少年が唱える生真面目な祈りの言葉がクラインの耳元でこだました。
じっと耳を傾けていたクラインは、あることに気がつき、固まった。
それは、少年が何を言っているのか、クラインには聞き取れないということだった。少年が話している言葉は、クラインにとって未知の言語だったのだ!
……灰色の霧の上の神秘の支配者なのに、「外国語」が聞き取れないとはな……クラインは自嘲気味に笑うと、悔しさから再びじっくり分析するように耳を傾けた。そう、英語のリスニング試験よりも真剣に。
そうやって聞いているうちに、少しずつわかってきたことがあった。
少年が話している言葉は、クラインが学んだことのあるどの言語とも違っていたが、古フサルク語と非常に似た特徴を持っていた。
「父……母……この2つの単語はおそらくそういう意味だろう。古フサルク語とよく似ているが、違うところもかなりある……」クラインは眉をひそめ考え込んだ。「古フサルク語は第四紀における人類の共通語で、全ての現代語のルーツにもなっている。しかも古フサルク語自体も絶えず変化してきたわけで……ああ、今の俺にはわからない……。」
クラインは少年の言葉を聞き込み、文法構造などの面から、ルーン語、フサルク語、インディス語などの現代語である可能性は排除した。