パッカ、パッカ、パッカ。
蹄の音に混ざって車輪の金属音が響く。クラインは「霊視」を発動させて辺りを見回すが、あの上品で優しそうな女性の姿は見当たらない。クラインの瞳には茶色いキャビンを奥へと進む光景だけが映っている。
その時、この停留所から乗合馬車に乗る客がすべて乗車し、扉がぴったりと閉まり、停留所から徐々に遠ざかっていく。
キャビンの中には、20~30人の乗客がいるが、距離が近いため、オーラが重なり合い、遮られている。クラインの目には色とりどりの光が輝いているように見え、判別が難しい。
クラインは無言で首を横に振ると、眉間に指を当てて「霊視」を解除した。
クラインにとって、さっきの出来事は偶然出会った人を助けられるなら助けたいという純粋な気持ちによるものだ。もしすでになす術がなく、状況が判然とないのであれば、いつまでも気にする必要はない。本来の任務を優先すべきだ。
緋色の月明かりに照らされながら、まだ賑わいの残る水仙花街を歩いて、クラインがのんびりと家に帰ると、メリッサがダイニングテーブルの側に腰かけ、煌々と灯るガスランプの明かりの下で、学校の宿題に取り組んでいるのが見えた。
メリッサはペンの軸を軽くくわえ、眉をひそめながら、必死に頭を捻っている。
「ベンソンは?」クラインは気軽に尋ねた。
「ん?……」メリッサは顔を上げると、数秒間ぽかんとしてようやく口を開いた。「今日はいろんな区を回って汗だくになったから、お風呂に入ってさっぱりするって。」
「そっか。」クラインは笑いながらそう言うと、メリッサが見たことのないロングスカートを履いているのに気づいた。
ベージュカラーを基調として、流行りのジゴ袖になっており、襟と前立ての縁に透け感のあるレースのフリルがあしらわれている。それ以外はあまり装飾がなく、軽やかで日常使いしやすいデザインで、16~17歳の少女の初々しさが引き立っている。
「新しいワンピース?」クラインは笑みを浮かべながら尋ねた。
これは以前、クラインとベンソンの強い勧めで決めた出費だった。
メリッサは「うん」と答えた。