「愚者」の質問を聞いたオードリーは、以前のようにすぐには答えず、澄み切った両目で審判者のように「吊された男」を一瞥した。
アルジェは思わず体の動きを抑え、数秒間沈黙した後に口を開いた。
「ロッセール大帝の日記を2ページ見つけました。その内容も覚えています。」
「私は1ページを持っています。」灰色の霧に視線を遮られたオードリーは、傍観者のような口調で答えた。
「それはよかった。」クラインは自分の喜びと失望を声に出していなかった。
彼が喜んだのは3ページもあること、そして失望したのは3ページしかないことだった。何かを探すというのは最初の方がたやすい。自分の手元にある利用可能なものと、伝手を活かすことだ。後になればなるほどさまざまな要因が加わり、難しくなっていく。
「今『表現』するのですか。」オードリーがぽかんとしてから落ち着いて聞いた。
「そのとおりだ。」クラインが潔くうなずいた。
それまでの姿勢をほとんど変えていなかった。「観衆」の前で慎重に振舞うべきだからだった。
クラインの言葉が終わるや、オードリーとアルジェの目の前に、黄褐色の羊皮紙と深紅色の万年筆が現れてきた。
2人はそれぞれ筆記具を手にとり、覚えているマークを頭の中で思い浮かべては、表現させてほしいという情緒をつけた。
すると音がないまま、黄褐色の羊皮紙に一行一行、文字が現れた。堂々と整った文字、上品な曲線を描く文字、ぐにゃぐにゃに歪んだ文字などさまざまだった。
1分も経たないうちに、オードリーとアルジェが覚えてきた内容が全て書き記された。
クラインが機転を利かせると、その3ページの羊皮紙は彼の手の中にぱっと姿を現した。
日記にさっと目を通したクラインは、順番が逆になっていたり、脱字や誤字が混ざっていたりするのに気づいた。
だが、順番が多少間違っていても、中国語の読解には影響ないことはすでに実験から証明されている。それに星印の解読に苦闘しているクラインにとって、脱字や誤字など問題ではなかった。