「住所がホールズ街19番地?」
資料を覚える際、クラインはすぐさまそれに気づいた。
「ウェルチの住所はホールズ街、占い倶楽部もホールズ街にあり、このシリス・アルビスという名の生地商人もホールズ街在住……それならウェルチがハナス・ファンセントと知り合いなのも不思議ではないし、もしかしたらこのシリス・アルビスを通じて知り合った可能性も……」
様々な手がかりが瞬時につながり、思考が一気にクリアになった。
クラインは当初、なぜウェルチがハナス・ファンセントと知り合いなのか疑問に思っていた。理由は、この銀行家の息子は神秘学の愛好者ではないからだ。ウェルチにとって役に立つのは、占いより金だった。だが今、クラインは、2人が知り合ったいきさつをほぼ断定できたと感じていた。
「様々な雑誌の記事によると、中産階級や富豪たちは、同じ階級同士で近所づきあいをして、自分にとって有用なコミュニティを作ろうとするらしい。であれば、同じホールズ街に住んでいるウェルチと生地商人シリスが友人になろうとするのもごく自然なことだ……」
「それにシリスが、いつもホールズ街の占い倶楽部を訪れるハナス・ファンセントと知り合いでも別におかしくはない。偶然かもしれないし、何かを手伝ったのかもしれないが、とにかく何らかのきっかけで、いつも同じ場所に現れるハナスと親しくなった……」
「ハナス・ファンセントは古本を売ろうと考え、シリスの紹介で、史学科に通う大学生ウェルチを見つけた……」
「ハナスは夢で邪神『真実の造物主』のようなものを見たことがあり、呪文だって正確に唱えられるほど神秘学に傾倒している。どこかの秘密組織のメンバーである可能性もある……」
「さらに言えば、その秘密組織はシリスに誘われて入った可能性もあるな。」
……
様々な考えが次から次へと浮かんでくる中、クラインは、占いを使わなくても、男が残した資料の信憑性がかなり高いことを確信した。
「たとえシリス・アルビスという名前じゃなくても、生地商人じゃなくても、19番地じゃなくても、あの男はきっとホールズ街か周辺地域の人間に違いない!」
クラインは思考を巡らせながら、もう一度男の貸出履歴を調べ始めた。