灰色の霧の上には、無数の巨大な石柱に支えられた、広大な神殿が鎮座していた。
中に入ると、古びた錆だらけの青銅の長テーブルがぽつんと置かれていた。その両脇に、突如として深紅の影が1つずつ現れ、次第にぼんやりと人の形になっていった。
「ごきげんよう、ミスター・愚者。」まるでぼかし加工を施されたようなオードリーが会釈をして微笑んだ。「ここにはお酒がなくて残念だわ。あなたのために乾杯したかったのに。」
どうやら儀式魔法の成功を称えているようだ。
「あなたの魔力は我々の想像以上でした。」アルジェ・ウィルソンも賛美の言葉を口にした。
クラインの周囲には相変わらずこの上なく濃い灰色の霧が漂っていたが、右手で虚空を掴むと、ごく些細な質問に答えるかの如く、口を開いた。
「よし、俺らはどうやら正しい道を進んでいるようだね。今後何かの用事で、月曜の午後に身動きが取れないようなら、前もって儀式を行って知らせてくれたまえ。そうだな、呪文の『美しい夢を授け給え』の部分を、具体的な理由に置き換えればいいだろう。」
「それはありがたいわ。」オードリーはすぐさまうなずいた。「ミスター・愚者、ロッセール大帝の日記をまた1ページ見つけたの。これで残りはあと1ページなはず。」
「私は今週陸地を離れていましたので、新たに発見したものはありません。」アルジェは右手を胸に当て、申し訳なさそうに頭を下げた。
「気にしなくていいさ。すぐに全部見つかるとは思っていない。」クラインは椅子にもたれかかると、人差し指で軽くひじ掛けを叩き、「ミス・正義」に向かって言った。「では日記を『発表』してもらおうか。」
オードリーは軽くお辞儀をすると、うやうやしく答えた。
「仰せのままに。」
オードリーはテーブルの上に突然現れた万年筆を手に取ると、必死で暗記した呪文を頭の中で思い出し、そこに自らの願いを加えた。
その数秒後、頭の中で再生した呪文が、目の前に現れた羊皮紙にびっしり書き連ねられていた。
オードリーは一通り目を通すと、万年筆を置いて言った。
「できたわ。」
クラインは軽く手を挙げた。次の瞬間、羊皮紙はその手の中にあった。
クラインは羊皮紙に視線を落とすと、淡々と読み始めた。