ボグダは黄褐色の紙に包まれた薬草を手に、ふらふらと「ローゼンの民間薬・薬草店」を後にした。
そして軌道馬車を待っている間に不意に我に返った。
10ポンドでたったこの1包み?
僕の給料のほとんど1ヶ月分だぞ!
それにアナとジョイスを信じてなけりゃ、誰がこんな大金を持って占い倶楽部に行くか!
モレッティさんの占い料がたった8ペンスなのは、ローゼンの民間薬・薬草店の腹黒店主と裏でつながってて荒稼ぎしてるんじゃないだろうな?そ、それって新聞に出てる典型的な詐欺事件みたいじゃないか!あれこれ連想して少々クラインを怪しみだしたボグダは、ジョイスとアナさえ疑わしく思えてきた。
だが、結局は厚かましく返品することもできず、手の中の薬草を眺めながら、停まった軌道馬車に重い気分で乗り込んだ。
……
ローゼンの民間薬・薬草店。
店主は遠ざかっていくボグダの後ろ姿を見ながら、急に薬草を積んである勝手口のほうへ叫んだ。
「シェルミン、今日から薬草の仕入れはやめだ。」
「え?親方、なんでです?」くしゃくしゃの髪に整った顔の少年が出てきた。
店主は笑って言った。
「さっきのはうちの評判を聞いて来店した16番目のお客だ。このまま仕事を続けてたら、夜を統べる者や罰を与えし者、機械の心から目を付けられちまう。余所へ移ることを考える頃合いだ。」
「じゃあこの店は譲らないといけないんですか?」シェルミンがハッとうなずき、心配そうに尋ねた。
おや、と店主が応じた。
「残りたきゃ店を継いでもいいぞ。お前なら薬草の見極めも薬の調合も十分できる。だが、毎月の儲けの半分はベークランド銀行の俺の無記名口座に入金してもらうぞ。」
「でもボク、親方の十八番をまだマスターしていません。」シェルミンは1年と経たずに街を転々とする生活に嫌気が差していたうえ、親方が得意としている不思議な処方にかなり未練もあった。
店主は腰掛けたロッキングチェアをゆらゆらと揺らしながら言った。
「それは勉強して身に着くもんじゃねぇ…」
……