オエッ、オエッ。
クラインはその場にしゃがみ込み、我慢できずに吐いた。だが朝食を食べていなかったため、吐くものはすぐになくなった。
このとき、巻き煙草の箱に似た、ブリキ色の四角い小さなポットが、彼の目の前に現れた。
蓋が開いた口からは、煙草と消毒液、ハッカの葉などが混ざったような香りが漂い、クラインの鼻を刺激した。そして急にむせ返ると、心身が回復し始めた。
強烈な悪臭はまだ周囲に立ち込めていたが、クラインはもう吐き気を感じなくなり、嘔吐もすぐに止まった。
彼がブリキ色の四角い小さなポットを目でなぞりながら、目線を上に向けていくと、生きている者とは思えないほどの青白い手と、黒いトレンチコートの袖口が見え、冷たく暗い雰囲気を漂わせる「死体収集者」のフライが見えた。
「ありがとう。」クラインはすっかり回復し、手で膝を支えてまた立ち上がった。
フライは無表情に頷いた。
「慣れれば大丈夫だ。」
フライは小さなブリキポットの蓋を閉じてポケットの中にしまうと、身体の向きを変え、腐敗のかなり進んだ老女の死体に近づき、素手のまま死体を調べ始めた。ダン・スミスとレオナルド・ミッチェルは部屋の中を歩き回り、ときどきテーブルや新聞に手を触れていた。
ニールは鼻をつまんでドアの外に立ち、野太い声で恨み言を言った。
「あまりにも気持ちが悪い。わしは今月、手当を申請するぞ!」
ダンは振り返ると、黒い手袋をはめた右手で壁付暖炉周辺の漆喰に触れながら、クラインの方を向いて言った。
「ここはよく知っている場所か?」
クラインは息を凝らし、頭の中に自分の銀色の懐中時計の輪郭を描き、心身を落ち着かせた。
霊視状態になった彼は瞬く間に違う感覚に襲われ、目の前は突然、記憶の奥底に埋もれていた画像に変わった。
壁付暖炉、ロッキングチェア、テーブル、新聞、点錆だらけのドアの鉄釘、銀がはめ込まれた錫の缶……
この画像は薄暗く陰気で、まるで地球にあるドキュメンタリー映画のようだったが、それよりももっとぼんやりとした、もっと幻想的なものだった。