夏若雪は、秦正陽のこれらの言葉を聞いて、瞳を微妙に細めた。
その言葉から、彼女は二つのことを知った。
一つ目は、秦家がついに昆崙山から帰ってきたことだ。
二つ目は、その昆崙山の高人がなんと秦家に招き戻されたことだ。
「くそ!」
彼女の瞳には、わずかな憤怒と驚きが浮かんでいた。
今回秦家が帰ってきたとすれば、その高人が本当に伝説通りの人物であるならば、江南省全体が大きく変わってしまうだろう。
さらに重要な点は、自分の結婚の契約が抵抗することが難しくなることだ。
彼女はすぐさま叶辰を思い浮かべた。
今の状況で、叶辰には何か策があるだろうか?
叶辰は唐傲を斬ることができる、それだけでも彼の武道の力は決して弱くないという証明だ。
問題なのは、叶辰が自己の勢力を持っていないことだ。
天正グループはせいぜい一社の企業であり、ただのお金儲けの道具に過ぎない。
秦家という強者たちと比べるなど、まったく無理な話だ。
問題は、今回秦家の背後には昆崙山の強者が立っていることだ。
夏若雪はこれほど煩わしいことを感じたことがなく、自分を冷静にさせようと試みたが、とうてい無理だった。
既に下の階からは叶辰の催促する声が聞こえてきた。
夏若雪は唇を軽く噛みしめ、スーツケースを開けて中からお守りを取り出し、それを持って下の階に降り、叶辰の前に立った。
「これを君にあげる、わざわざ君のために願ったものだよ。」夏若雪は心中の迷いを一掃し、何事も無かったかのように振る舞った。
叶辰は一瞬、そのお守りを見つめ、口元に微笑みを浮かべた。
その瞳は、全てが優しさに満ちていた。
彼の今の力は、何のお守りが必要か。
それに、このようなお守りには霊気や功徳の光などまったく存在せず、大きな効果はない。
それでも叶辰は何も言わず、そのお守りを身に付けた。
「若雪、これが君が私にくれる特産品なの?最近の特産品ってこんなに心がこもってるのか?」と叶辰は笑いながら言った。
夏若雪は少し心ここにあらずの様子で、「それだけ着けていてくれればいいのよ。とても似合ってるわ。ちょっと用事があるので、外出しなきゃいけないの」と言った。