彼が相手の質問が自分自身に穴を掘り下けることだとは思っても見なかったし、その穴の源は様々な書籍を作成している最中にすでに埋められていた。
ただ一般的には、これほど庞大で複雑な情報に初めて触れるとき、理解するだけでも困難を極めるので、その中の誤りに気づくことはまずできないー宇宙の万物の本質を研究する自然科学で、始めから終わりまで魔力という言葉が一言も出てこないということは信じられないことだ。
だが、ローラン自身も第四王子の記憶を脳から全く追い出し、異世界に来た最初の一ヶ月では彼を意識的に模倣していた以外、その後はそれを気にかけることは全くなかった。 大臣は直接疑問を挟む勇気がなく、魔女の前では自己を隠す必要もないため、彼はますます無頓着となってきた。
だが、ティリが一般的な魔女ではない。
彼女は第四王子の妹であるだけでなく、超常者でもある。
彼女は短時間で全ての書籍を読み終えてしまっただけでなく、この非常識な点にも鋭敏に気づき、その論理的思考は初等教育を受けた現代人と全く遜色ない。 さらに彼女は問いかけることで自身の見解を導くと、それら相互に証明し合い、完全に彼を反論の余地無しにした。
大きな危機だ。
ローランの頭の中で思考が速く回転したものの、何か適切な返答が見つからず、この問題に気づく者にとっては、どんな強引な説明も疑問を増すばかりであり、またうそはより多くのうその被せ物が必要で、漏れはますます増えるばかりだった。
厳しい沈黙のさなか、ティリが再び口を開いた。今回の彼女の声はかなり穏やかだった。「答えを急ぐ必要はないわ。今日はすでに時間が遅いのよ。先に魔女の塔に戻るわ。お休みなさい、殿下。」
「あ、ええ......」とローランは遠く見つめながら、この灰髪の女性をぽかんと眺めて、彼女の動く瞳孔に何を考えているのかは分からず、立ち上がって送り出すことさえ忘れていた。
ティリはオフィスのドアのところで立ち止まり、彼の方を振り返った。「あなたを信じてもよいわね?
普段なら、ローランはためらうことなく胸を叩き、その言葉を返すだろう。だが、この瞬間、彼は何故か自分自身がその答えをすぐには出せないことに気づき、ついに彼はゆっくり頷いた。